なぜ信長は神仏を破壊できた?歴史学者・本郷和人と脳科学者・中野信子が戦国武将の心理を分析

■歴史の深層を掘り下げる

客観的史実のみが重要視される歴史学の世界では、人物の内面を考察することはタブーとされている。しかし、日進月歩で研究が進む現代の脳科学を歴史学に応用することで、史料からは読み解けない真実が明らかになることはないのだろうか――。

今回あえてそのタブーに挑んだのが、東京大学史料編纂所の本郷和人教授と脳科学者として多方面で活躍する中野信子氏の二人。歴史研究の最前線をいく本郷教授の対談相手として、脳科学的な見地から分析を行う中野氏もじつは大の歴史通である。また、NHKの歴史番組『英雄たちの選択』でも共演する二人は「歴史は暗記科目ではない」という理念をともにする同志でもある。

歴史学と脳科学――それぞれの分野におけるトップランナー二人による対談の過程で次々と明らかになった戦国武将の素顔とはどのようなものなのか?
対談では武田信玄や上杉謙信といった有名武将の分析はもちろん、元祖毒親ともいわれる淀殿や武将たちの生殖戦略まで幅広い分析が行われた。
本稿では、総勢15人の武将のなかから、一例として織田信長を紹介する。

■なぜ信長は神仏を恐れなかったのか?

織田信長といえば、尾張一国の大名から「桶狭間の戦い」「長篠・設楽原の戦い」といった名だたる合戦を勝ち抜き、天下統一目前まで迫った戦国の風雲児。歴史の教科書に描かれている信長は、50年という生涯のなかで「楽市楽座」「新兵器の導入」「将軍・足利義昭の追放」などを成し遂げてきた革命児そのものだ。既存の慣習を打ち破るその姿から、現代においても「上司にしたい偉人ランキング」などでは、必ず上位にくる人気の武将である。

しかし、こうした革新的な施策を次々に実行した信長の精神構造とは一体どのようなものだったのか?今回の対談で論点となったのが、信長による「比叡山の焼き討ち」と「一向宗の虐殺」だった。一般的に無宗教といわれる日本人だが、いざもらったお守りをゴミ箱に捨てられるかと言われるとなかなかできる人はいないのではないだろうか?ましてや戦国時代とはいえ、現代よりも宗教と社会が密接に結びついていた時代である。

本郷教授によると、当時の比叡山は学問の聖地としても栄えており、信長が焼き討ちの際に殺したとされる4000人という人数は、現在の東大の教員数に匹敵するという。つまり、信長の所業を現代に置き換えると「東大を焼き討ち」にしたというほどのインパクトをもつことなのだ。さらに、信長は一向宗との戦いの最中に信徒1万2000人、2万人規模の虐殺も2回行っている日本史上唯一の大量虐殺者でもある。虐殺された人の数を現代に置き換えれば、合計でおよそ32万人規模の虐殺が行われたといえてしまう。信仰心の厚かった時代において、信長がこうした虐殺を平然と行った点を本郷教授は重視する。

一方、このような所業を平然と行えた信長の脳の特徴として中野氏が指摘するのが、脳にある「扁桃体」という部位の機能が低かったという可能性。
「脳には扁桃体という部位があり、そこで恐怖とか不快を感じます。信長は扁桃体の機能が低かったかもしれない」(中野)
扁桃体の機能が低かったからこそ、恐怖や不快を感じることなく2000人で今川軍2万5000人を打ち破った桶狭間の戦いや宗教権力の打破、大量虐殺が成し遂げられたと言う。

さらに本郷教授によれば、信長が若手の家臣を評価する基準は「戦場でいくつ敵の首を挙げたか」ということ。そのため、官僚としての能力が高かった若者をさして重要でもない戦で失ったこともあったが、信長にとっては「使える」「使えない」を見極めるうえで、殺人は非常に重要な物差しであったという。このような冷酷な判断を下せたという歴史事実も、恐怖や不快を感じない信長の扁桃体機能の低さを裏付ける根拠となりうる。

そうした冷酷な脳に加え、史料に名を残さない信長の妻たち、信長の美的センスの有無といった議論から明らかになった信長の素顔とは――。

総勢15人の武将の精神分析が行われた対談は、現在発売中の宝島社新書『戦国武将の精神分析』に収録されている。
歴史学、脳科学はもちろん、幅広い知識をもつ二人の話題は「忖度(そんたく)」「日米同盟」「絆社会」といった時事ネタにまでおよび、さまざまな知識が得られる内容になっている。ぜひ、本書で歴史を学ぶ愉しみを知ってほしい。


宝島社新書『戦国武将の精神分析』
著者 : 中野信子・本郷和子

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